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エル=バシャを聴き終えてほのぼのとした気持ちで帰途につく

12/14/2018

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エル=バシャの前奏曲の夕べを聞いた。バッハ、ショパン、ラフマニノフの三人の前奏曲を調性ごとに弾いていくという面白い趣向。私が聴いたのは後半の二日目(2018年12月14日@武蔵野市民)。嬰ヘ長調から半音ずつ上がっていく順番での演奏。恥ずかしながらエル=バシャを聴くのは初めてだった。

ピアニストは作曲者と聴衆の仲介役である。ピアニストに向けての究極の質問は「あなたは作曲者のために演奏しているのですが、それとも聴衆のためですか?」というものだ。今は上手なピアニストが掃いて捨てるほどいる時代であり、その中で差別化を図るために、個性を売り物にしていくことが多くなる。このアプローチは聴衆寄りの演奏を志向するということに他ならない。作曲家が書き残した楽譜を使いながらも、如何に自分の個性を表出するか、という競争をするということだ。

しかし今日のエル=バシャの演奏は全く聴衆のことなど気にかけていなかのようなものだった。聴衆に媚びることなく、変わったことをするのでもなく、テクニックを(彼自身すごい技術の持ち主なのだが)見せびらかすのでもなく、ただ楽譜に並ぶ音符一つ一つを練り上げた表現で提示していくことで音楽を創り上げる、そんな風だった。当日演奏していたベヒシュタインの深い響きとも親和性が高かったと感じる。

エル=バシャの持つテンペラメントはショパンの前奏曲のそれに最も近いと思う。詩的で内面的であるが、しかしどこまでも均衡の取れた小宇宙(ミクロコスモス)。ハイネがショパンに対して与えたという称号「ピアノのラファエロ」を彷彿とさせる。バッハもバロック様式を意識するというよりはピアノという楽器のもつ能力を生かしたロマンティックな解釈だったし、ラフマニノフについてはロシアのスケール感や暗い情熱よりは、内面性や繊細さが解釈の中心にあった。例えばラフマニノフの前奏曲の中でも人気の高いOp. 23-2変ロ長調(マエストーソ)なども、通常は力強くて華麗なスタイルで演奏されるところだが、エル=バシャは巧妙なタッチとペダリングで抑制のきいた表現を見せて、一味違う味わいを出していた。この曲の終わり近くの両手のオクターブが連続する難所も、テクニックを見せびらかすような感じはなく、何気ない表情でしかしスゴイ速さで弾ききったのが、かえって凄みを感じさせた。

三人の希代の作曲家による前奏曲を続けて聴いた後に残ったのは、穏やかで幸福な気分であった。決して驚かせたり異常な感興をもたらしたりするわけではないが、じんわりと聴き手の心に残る、味わい深い演奏だったと思う。落ち着いた笑顔が素敵な彼のステージマナーを見ても、きっとこの人は暖かい心の持ち主なのだろうな、と思った。しかしカリスマや強力な個性がスターとして持ち上げられる時代に、こういう真っ当で誠実な演奏家は生きにくいかもしれない、などと感じたのも確かだ。

ただし、一つ疑問を提示しておくと、様々な前奏曲をこのような順番で弾くことの意味は最後まで判然としなかった。このプログラムが全体として深い意味のあるメッセージを持つとも正直思えなかった。エル=バシャの音楽家としての大きさをより知るために、次は例えばベートーヴェンなどの大きな構成を持つ曲を聴いてみたいと思った。
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